「水の消毒」に関する知識が網羅された専門書
かつて私が従事していた、温浴施設の浴槽水やプール水の水質管理のために、基本的な消毒の
知識を網羅する目的で入手した本です。
一般には販売されておらず、当時は入手するために出版元へ直接注文した覚えがあります。
しかし水質管理や消毒などの「水」の管理に従事する者にとっては、必須事項とも言える消毒
の選択肢を持つことができる、数少ない貴重な書物です。
本書の構成
本書は1章〜21章までで構成されており、序盤では消毒が必要とされる理由と代表的な消毒の
対象となる病原微生物の説明が続きます。そして消毒の機構、消毒速度、消毒に影響を及ぼす
因子、消毒方法の種類と選択と記述されていきます。
第7章より各章にて個別の消毒方法についての説明がなされ、各消毒方法の性質や化学的
理論、消毒の性能などについて詳しく説明が続いていきます。
18章以降は微生物的リスクの評価、水浴場の基準に関する考察、雑用水・排水・水道水基準に
関する考察、震災時に予想される最悪な微生物汚染の程度とその対策、で完結します。
序盤の内容(消毒全般の知識)について
「はじめに」では本書が書かれるに至った背景として、病原性大腸菌(O-157)の問題などが
あったことが紹介されています。
現状でわかりうる全ての消毒に関する知識を網羅した本を作ることを目的として、本書が作成
されたということも書かれています。かなり気合いの入った専門書です。
続いて病原微生物についての説明がなされています。
病原微生物と言ってもその種類やせ性質は多種多様で、消毒剤との相性によっては全く効果が
見られない組み合わせなどもあります。
特にお風呂などでの発生が問題視されるレジオネラ属菌に関しては、塩素剤や乾燥、温度変化
などによる生命の危機を感じると、動きを止める代わりに耐性アップする「芽胞」という形に
変態することなどが挙げられます。
そのような変化を起こす前に一発で仕留めるための塩素濃度についても言及されています。
これを読んだ当時の心境としては、レジオネラが一番消えて欲しいのに、一番塩素に強い菌
じゃないかと、絶望的な気持ちになったのを覚えています。
未だに入浴施設では塩素による殺菌が行われていますが、現場の人はそんなことを考える暇が
ないほど忙しいのでしょうね。
最近はレジオネラ症で亡くなる人の話を聞かないのがせめてもの救いです。
これら微生物の話と絡めて、消毒が行われるメカニズムとその作用する速度に関する理論、
そして消毒性能に影響する各種因子(微生物の存在する状態、pH、水質など)との関係が
詳しく説明されています。
この部分は色々な性質が異なる温泉水や井戸水を消毒する際には、かなり実践的に役立つ
内容が書かれていました。使いこなせていたかは不明ですが。
各種消毒方法の紹介
消毒というと、私たちに最も身近な方法としては塩素を使ったものがあります。
水道水やその他の浴槽水などは、ほとんどが塩素による消毒です。
しかし水を消毒する方法で、かつ安全に水が使えるものとしてはかなり絞り込まれます。
本書で紹介されている消毒方法(詳細は省略)を列挙すると、
①塩素消毒(次亜塩素酸ナトリウムを使う方法が代表的)
②二酸化塩素(水中での反応が上記塩素と異なるため別記)
③塩素以外のハロゲン(臭素区、塩化臭素、ヨウ素)
④オゾンによる消毒
⑤重金属による消毒
⑥重金属を含む酸化剤による消毒
⑦紫外線(UV)照射による消毒
⑧放射線消毒(α線、β線、γ線、その他放射線)
⑨熱による消毒
⑩膜分離法(殺菌ではなく微生物を分離・除去する方法)
以上、10通りの方法が紹介されています。
やはり塩素消毒が最も歴史があり、安価で効果的であるということからも、その記述分量の
多さや詳細さは、他の方法より群を抜いています。
詳しく研究されている分、他の消毒方法よりも問題点(トリハロメタンの生成など)も明らか
になっているが、裏を返せば他の消毒法が塩素に敵わないということになります。
臭いだの健康に悪いだのと騒ぐ人が多いですが、水の消毒技術の中では塩素消毒が最も優秀で
安全であるということになります。
消毒に関係する環境の考察(終盤)
本書終盤では、消毒を行うに当たり影響を及ぼしうる環境についての考察がなされています。
例えば水浴場や、もっと対象を広げて雑用水や排水、そして最も安全基準が厳しい水道水に
関して、その法的基準や衛生的配慮について考察されています。
それぞれの形態の水において、求められる水質基準や原水の汚染状況も大きく異なります。
そうした要素を総合的に評価して、最適な消毒方法を選択しつつ適切な濃度なり強度を調節し
消毒を実行する必要があります。
そしてこれらの考察のまとめとして、最終章では「震災時に予想される最悪な微生物汚染の
程度とその対策」として、総合的な水のリスク管理に関する考察と参考にすべき指標が列記
されています。
まさに実践の書ですね。
震災時の水質管理についても、本書を参照しながら水質の汚染リスクに立ち向かうことが
可能となる構成でした。
素人さんには非常に手が出にくい本
本書は学術的な専門書であると同時に、現場の技術者が常に参照し、その業務の実践に日々
役立つノウハウが満載されています。
一般の人に向けて販売されていない理由というのは、まさにそういった専門的で高度な内容で
あることがまず挙げられます。
そして、消毒のメカニズムが解明されてしまうと、それを逆手に取って水道水を汚染させる
ような不届き者が現れる危険性もあるということなのかもしれません。
本書はおそらく冊数が出ないため、価格も5,500円と技術書らしい立派な値段です。
色々と一般の人が読むにはハードルが高い本です。
書評ブログでネタにするべき本ではない、ということはハッキリしていますね。
アマゾンでも売っていないという、その希少さ。
そんな珍しい本を持っているということが、本マニア(積読常習犯)には喜びとなるのです。


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