おとなの温泉旅行術 本物の見分け方・入り方 松田忠徳 著

温泉本

”ホンモノ”の温泉選びができるようになる指南書

温泉教授こと松田忠徳氏が提唱する”ホンモノの温泉”を選ぶために、オススメの鄙びた宿など
事例を含めて解説されている本。

松田氏の多数の著書の中でも本書は、今の温泉旅行のあり方を「確認の旅」と位置付けます。

それは徹底的に下調べをした上で確実に癒されるであろう宿に対象を絞り、自分が泊まった時
に期待通りの癒しが得られるか、を確認することを目的とした旅であるとしています。

失敗が許されない社会生活のプレッシャーから「ハズレを引きたくない」という思いが根底に
あります。

そのようなハズレを引きたくない、との思いに応える形で、本書の「本物の見分け方・入り方」
というテーマが提示されているような印象を受ける本です。

 

著者紹介

本書の底本となった『おとなの温泉旅行術 本物の見分け方・入り方』2003年6月2日第1版第1
刷発行当時の著者経歴を本書奥付より引用します。

松田忠徳 [まつだ・ただのり]

1949年北海道洞爺湖温泉生まれ。東京外国語大学大学院修士課程修了。専攻はモンゴル学、アフリカ文学。現在、札幌国際大学観光学部教授(温泉文化論)、旅行作家、翻訳家。98年1月から翌99年9月にかけて、日本全国2500の温泉を行脚したことが話題に。その後、現在までに踏査した温泉は4300湯を超える。また、『温泉主義』(くまざさ出版社)の編集長としても活躍。おもな著書に『温泉教授の温泉ゼミナール』『温泉教授の日本全国温泉ガイド』(以上、光文社新書)、『温泉力』(集英社インターナショナル)、『列島縦断2500湯』『松田忠徳の日本百名湯』(以上、日本経済新聞社)、監修に『日本の千年湯』(新潮社)など多数。

世界で唯一の”温泉教授”として活躍している著者が、いかに多くの発信をしているかがわかる経歴です。
温泉ファンの中ではこの著者の主張から、”源泉かけ流し原理主義者”といった過激な思想を持った人だと認識されています。しかし著者自身の認識は、決して循環ろ過&塩素消毒の風呂を否定していないと言います。確かにその存在自体を否定することを直接的に言及していませんが、いわゆる「ホンモノの温泉」という考え方を提唱する時、古来より温泉として利用されてきた湯治場のような温泉を賞賛し、源泉かけ流し、自噴泉、混ぜ物(加水、加温、消毒剤)なしでなければ温泉ではないという主張が目立ちます。そこを曲解(?)している温泉ファン、特に過激な温泉ファンが、著者をして「源泉かけ流し原理主義者」と言わしめるのではないかと思うのです。
事前知識なしに著者の本を読めば、当然のように循環ろ過&塩素消毒という「天然温泉」というものを忌避するようになります。そして忌避するという姿勢から生じる思想として、「源泉かけ流し原理主義」とも言える過激な温泉信仰が生まれてくるのです。

 

本書の内容

『おとなの温泉旅行術』ということだけあって、本物の温泉について深く理解するために
温泉文化とも言える温泉の歴史や分野、古来よりの伝統的な利用法、当時などについて詳しい
説明がされ、読者自身が本物の温泉を選べるようになることを目指している本です。

本書の言葉を借りれば、「確認の旅」としての温泉旅行を行う上で、ハズレを引く確率を下げ
本物の温泉を選ぶ際の判断基準やその要素が明示されています。

その上で、具体的な温泉の探し方やツアー利用のメリット・デメリットが説かれているので、
温泉旅行に慣れていない読者やこれから温泉旅行を楽しもうとしている読者にとっても親切な
内容になっている印象を受けました。

本書の初版発行が2003年であることもあって、記述内容がやや古いなあ…と
感じるとことも多々あります。

しかしそういった点よりも、温泉教授としての広い知見を生かした「本物の温泉」を選べる
ようになるための判断基準は、おそらく「良い温泉」を選ぶにあたっては今後も不変の基準
とも言えるものです。

本書全体を通じて、いつもの松田氏の主張のやや過激な ”源泉かけ流し原理主義者” とも
思われかねないような内容があまり目立たず、初めて温泉関連の本を読む人にとっても
優しい表現で書かれています。

以下にて、各章の概要(目次より抜粋して引用)をざっと見ていきます。

序章・第1章 現在の温泉利用の姿勢

序章 デフレ時代の温泉人気
第1章 現代日本人の温泉事情
1…「純和風」への逃避と自信
2…「ふるさと」づくりがもたらした成功
3…「本物志向」の温泉旅行術

序章と第1章では、現在の温泉利用に対する人々のスタンスと、それを形成するに至った
社会情勢を大まかに説明しています。

一読した感覚では、著者の主観がやや強いのかな?という印象を受けました。

一方で社会の “雰囲気” のようなものは数値的な指標で表すことが難しく、
主観的な表現にならざるを得ないのでしょうね。

ただし主張の裏付けとして、著者が普段指導している学生たちの視点も添えられており、
一部の若い人たちの感覚としては、本書にあるような”本物志向”もあるのかもしれません。

 

第2章 伝統的な温泉のあり方、温泉に関する文化

第2章 日本にとって温泉とは何か
1…温泉の起源と「禊」の精神文化
2…仏教の流入と温泉の発見
3…温泉はみんなのもの

第2章では、著者が主張する温泉が「本物の温泉」であることの根拠を説明していきます。
いわゆる伝統的な古き良き湯治場や、共同浴場に関する記述です。

また共同浴場という形が生まれるきっかけのような考え方として、
仏教による施浴の思想が紹介されています。

古くからある温泉には、お寺に温泉が付属しているケース(世界遺産「日光山輪王寺」の別院
である「日光山温泉寺」など)も多く、
その理由は施浴という考え方に依っているものなのだという発見もあります。

温泉が今のような形で利用されるようになった経緯やその文化的背景を考慮した時に、
その文化を継承しうる形の温泉が「本物の温泉である」と言いうるというのは
確かに筋が通っています。

 

第3章 本物の温泉の選び方と入り方

第3章 本物の温泉の見分け方・入り方
1…本物を見極めるための温泉基礎知識
2…「裸のつき合い」を円滑にする実践マナー講座
3…外湯をめぐり、温泉街を歩く

第3章ではついに「本物の温泉」の探し方を説明していきます。

この章に至るまでに、伝統的な湯治などの文化を継承している温泉についての知識が
得られているはずです。

そのため本章で説明する内容は、まとめや確認に近いような印象になります。

とりあえず手っ取り早く本物の温泉を見極めたい!という時には、
本章から読み始めてもいいかもしれません。

一方でそれでは、なぜこういう項目を満たしていると本物と言いうるのか?という肝心な所が
わからないままなので、むしろ ”本物の温泉原理主義” に陥る危険性があります。

なぜわざわざ不便な湯治場のような温泉を選ぶのか?ということを知らなければ、
その不便さは、温泉利用時のデメリットとしてしか受け取れません。

本書にあるような「本物を見極めるための基礎知識」をしっかりと身につけ、その背景にある
歴史や文化を理解して鄙びた湯治場へ行くと、真の深い味わいが得られるというものです。

そういった意味では、「温泉道」とも言えるような奥深さも感じられるはずです。

 

第4章 具体的な温泉旅行の計画方法

第4章 温泉教授の目的別旅行プラン
1…できる男の温泉休暇術
2…女性のための旅行指南
3…家族・夫婦の水入らずの旅行
4…病気療養のための湯治術
5…ツアー旅行の賢い利用法

本書の締めくくりとして、具体的な温泉計画の策定方法についての提案がされています。

ケースごとにそれぞれ温泉利用の方法や場所の選び方が紹介されています。

本書の中でも随時、著者オススメの宿が載ってたりしますが(少々古い本のため閉業している
宿もあり)、そういうところはレベルが高い(鄙びていたり、交通が不便だったりする)こと
が多いです。

温泉旅行に慣れていない、もしくは有名温泉地くらいしか行ったことがない、
という場合には、本章にあるようなケース別旅行プランを参考にして計画を作ることで、
本物の温泉を楽しみつつも、満足度の高い温泉旅行が実現できるでしょう。

温泉は自然が生み出す恵みであり、相性や好みによっては気に入らない場合も考えられます。

いくらか慣れた後にそういう場所に当たるのならまだいいのですが、初めて行った温泉で
そのような体験をしてしまうと、鄙びた温泉自体を避けるようになってしまいます。

それでは本物の温泉を楽しみたいと思ってくれている人が減ってしまうので、
本書ではこのような温泉旅行のプラン例を書いているようです。

鄙びた温泉は源泉の性質を維持するために部屋数が少なく、管理は非常に手間がかかります。

そのため、多くの人が途切れることなく利用し続けることが、温泉自体の運営、
さらには温泉文化の継承に繋がっていきます。

そのような文化継承の観点からも、本書に書かれているような文化的背景や歴史を理解し、
その上で本物の温泉で心身を癒す経験をしてほしいのです。

能書きをしっかり理解していると、温泉に入った時の効能ももしかしたら大幅アップするかも
しれませんよ!

読後感・感想

『おとなの温泉旅行術 本物の見分け方・入り方』というタイトルの本ですが、
この本は温泉教授である松田氏が、普段の学生指導の中で感じた若者が温泉に求めるもの、
つまり「本物志向」の温泉を求める嗜好を感じ取って書かれた本です。

そのため、本物の温泉にハズレを引くことなく入りたいと願う人に向けて書かれた本であり、
温泉旅行に行きたいけど、実際どうやって温泉地を選んだらいいの?
という人にとってはまさに名ガイドとなる一冊です。

温泉ファンの中には、著者のやや過激とも取られかねない ”源泉かけ流し原理主義” 的な主張に
辟易している人もいるようですが、本書はそこまで強烈な源泉かけ流しの主張と、
循環ろ過&塩素消毒風呂への攻撃は見当たりません。

むしろ、伝統的な温泉文化を継承しているような、規模の小さな宿で温泉の湧出量に合わせた
浴槽を維持している宿や共同浴場が本物なのだ、そしてその根拠はこれだ、と展開をされて
いるので、とても読みやすく、主張もスッと入ってくる読後感を得ています。

温泉に関しての体系的な研究は、戦後の日本ではほぼ失われれている状況です。

しかし松田氏のように、自分でたくさんのお湯に入り、その体験的に得た良さと
その根拠となる文化的背景を発信しつつ、一つの文化体系としてまとめ上げようとしている
動きというのは、非常に大切なことだと言えます。

温泉が世界一豊富と行っても過言ではない温泉大国日本に住む私たちが、
意外なことに温泉に対して非常に無頓着であるという指摘もあります。

資源が少ないと言われている日本ですが、温泉資源に関しては世界一豊富である、ということ
をしっかり認識して、温泉の豊富さこそが日本の強みとして世界にアピールしていくためにも
本書のようなアプローチが今後さらに重要になってくるのだろう、と思っています。

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