温泉教授の健康ゼミナール 間違いだらけの入浴常識 松田忠徳 著

温泉本

温泉教授の ”健康” ゼミナール

温泉教授こと松田忠徳氏による、温泉への入浴を通した健康づくりの本。
ホンモノの温泉でなければ温泉の真の効能は得られないという主張を持ち、数々の著書で一貫
して「ホンモノの温泉」の重要さを訴え続けています。

本書はそのタイトルにもあるように、温泉利用による健康づくりにフォーカスした一冊と
なっております。

従来の著者の温泉本とはやや異なった視点からの本です。

 

著者紹介(本書裏表紙)

温泉ファンにとってはもはや説明の必要がないかもしれませんが、本書発行時点の著者紹介を
本書カバーの裏表紙より引用して記載します。

松田忠徳(まつだ ただのり)

1949年、北海道洞爺湖温泉生まれ。文学博士、医学博士。札幌国際大学観光学部教授(温泉学)、モンゴル国立医科大学教授(温泉保健医学)、北京徳稲教育機構教授(温泉学)。”温泉教授”で知られる温泉学の第一人者で、海外を含めこれまでに4700湯を踏査。全国の温泉地活性化を指導し、温泉による健康保養地医学、予防医学の研究を続けている。おもな著書に、『温泉手帳』(東京書籍)、『温泉教授の温泉ゼミナール』『黒川温泉 観光経営講座』(光文社新書)『温泉旅館格付けガイド』(新潮社)、『温泉力』(ちくま文庫)、『温泉維新』(日本経済新聞出版社)、『北海道ホンモノの温泉』(寿郎社)、『温泉の未来』(くまざさ出版社)、『朝青龍はなぜ負けないのか』(新潮社)など多数。

-本書裏表紙より引用-

温泉の専門家であると同時に文学博士、医学博士でもある著者ですから、多数の著作がある
ことと、温泉による健康づくりについても堂々と語る資格があることがわかります。
また、温泉に関する知見の広さを生かした温泉地活性化の指導も行なっているとのこと。

この人の著作によく出てくる黒川温泉についても『黒川温泉 観光経営講座』という本を
出しているように、かなり深く関わっていたことが伺えます。

 

本書の内容について

世界有数の温泉大国に生き、年に何回も温泉に通いながら、正しい温泉の利用法を私たちはあまりに知らない−。
温泉で健康になる身体のメカニズムを解明し、湯治に始まる日本の入浴文化を見直しながら、ホンモノの温泉を見分けるために必要な最新情報をも網羅。温泉教授による「温泉健康学」の集大成である。

-本書表紙裏のあらすじより引用-

あらすじにもあるように、日本という国は温泉が豊富で身近にたくさんあるせいか、海外と
比べると温泉に関する本気の研究などが非常に乏しいそうです。

草津温泉では有名はベルツ博士が、明治時代に温泉の効能に度肝を抜かれて本気で研究すべき
と訴えたエピソードもありますが、その後の研究が発展したかどうかは推して知るべし。

戦後、それこそ医療資源が不足するときに一時的に温泉による加療が研究されていましたが、
今では温泉を医学として研究している機関は皆無。

辛うじて残っている温泉併設の医療機関は、温泉をリハビリに使うお風呂として利用するに
止まっているそうです。なんと勿体無い…。

そんな温泉利用が遅れに遅れている日本ですが、伝統的に「湯治」という習慣が存在します。
医学的研究は貧弱ですが、昔から日本人は肌感覚で知っていたのかもしれませんね。

 

温泉が効くメカニズムの説明

本書は「健康ゼミナール」とタイトルにもあるように、健康がテーマです。

今までの著者の本と比べると、温泉そのものから身体への影響に焦点が移っている点が
これまでとは少々毛色の異なる一冊となっています。

なぜ身体への効能があるのか、ということについては本書第2章、またガンにならない
身体を作るというように、特定の疾病防止の観点からの記述は第3章にそれぞれ記述が
なされています。

色々と根拠を述べて温泉が健康維持や病気の予防に有効ですということなのですが、
やはり健康増進や病気の予防という観点からも「ホンモノの温泉」であることが重要
であるということが言えるようです。

特に温泉本来の性質である「還元系」であることが大切な指標となります。

しかし本書の記述のようにいくつ以上の数値だから優れている、というような使い方ではなく
相対的なもの(湧出時よりどれだけ酸化系に傾いたか=温泉の老化の指標)だということが
還元系を判定する「酸化還元電位(ORP)」の提唱者の本(生きている温泉とは何か)に
書かれていたので、この部分は著者の記述が誤解を招くなあ、と危惧します。

事実、源泉かけ流し原理主義の温泉ファンが、ORP測定器を持参して温泉のORPを測定し、
勝手に格付けしているという話も聞きます。

全ての温泉が湧出時、還元系であることは事実ですが、源泉が含む物質の組成によって
その電位は当然異なるわけで、その電位の違いで優れた温泉であるとか、そういう使い方は
著者の言い分を強化するために都合よく言い換えている印象がありました。

私個人的な偏見満点の意見を言わせてもらえば、「これだから文系は…」。

塩素(酸化剤)の投入=酸化系への変化

酸化還元電位についてその使い方が間違っていないであろう箇所は、塩素剤の投入による、
温泉水の酸化系への変化です。

塩素剤はその酸化力によって殺菌する(厳密には異なるが)ので、自ずと温泉水も酸化系へと
変化することになります。

塩素剤を入れても酸化系になっていないということは、温泉の還元力が塩素に打ち勝った、と
いうことなので、殺菌力がない状態です。
いわば酸化力をもつ塩素(毒)を、温泉が解毒し切ってしまった状態と言えます。

故に、塩素による殺菌効果を期待するには、酸化系になるま塩素の投入が必要となります。

殺菌力が維持されている塩素入り温泉は、当然塩素臭くなります。
すると温泉情緒など望むべくもなく、肌も荒れるしいいことがありません。

塩素入りの温泉(だったもの)に入るということは、水泳用のプールに入るようなものです。

プールから上がったら、必ずシャワーを浴びたり目を洗ったりします。
そうしないと肌や髪が傷んだり、目が充血してしまうためです。

それほどの悪影響が身体に及ぼされるのです。

そんな温泉だったものに浸かっては、癒されるどころが気持ちまでが疲れ果ててしまうような
感覚を覚えます。

本書ではその状態を、「心までも酸化させてしまう」と表現しています。
この部分については私も賛同できます。
衛生維持を目的とし、人間の肌まで殺してしまい兼ねない今の消毒は、再考すべき事項です。

 

温泉博士の真骨頂、ホンモノの温泉の見分け方

終盤の6章、7章では、温泉博士の真骨頂でもある「ホンモノの温泉」の見分け方と、その温泉
の力を最大限にまで活用する正しい入浴法の紹介が載っています。
ホンモノの温泉を見分ける、と言いますが、実際にはかなり難易度の高い作業になります。

仮に本書の方法で「ホンモノの温泉」を見つけて入ったとしても、ニセモノの温泉や
マガイモノの温泉がどれほどのものかを知っておかないと、その良さがわからないかも
しれないことが考えられます。

すると、ホンモノの温泉といっても大したことないという認識になり、温泉教授が目指す
「ホンモノの温泉の啓蒙」が果たせなくなってしまいます。

さらには温泉の良さは「入れば分かるものだ」と言われがちですが、ある程度色々な温泉に
入ってみて、自分が心地よいと感じる度合いの強さを感じ取れるだけの練習も必要だと、
私は思っています。

新しい基準や新しい概念を提示するときには、あらゆる人が確実に再現できる方法を提示
しなければ認められないという理系では当たり前のことが、やや不足しているような印象を
本書の端々で感じられるのが気になりました。

 

「正しい入浴方法〜湯治に学ぶ」の問題点

本書は温泉教授である著者が、その豊富な温泉体験に基づいた「ホンモノの温泉」がいかに
素晴らしく、健康増進に有効かを説く本でした。
ですから、健康増進効果を引き出すためには当然に、正しいとされる入浴法が提示されます。

ところが本書の「正しい入浴法」は、私の所感としては「著者の頑固なこだわり」に見えて
しまったところがあります。

「正しい入浴法」というテーマで書くなら、『最高の入浴法』のような再現可能なノウハウと
して記述を充実させるべきではなかったかな、と思うのが正直なところです。

とは言え、本書の著者が「医学博士」と言っても医者ではないので、そこまで求めるのは酷な
話なのかもしれません。

本書の提示する正しい入浴法は、伝統的湯治法を踏襲する場合に参考にすべきものであって、
本気で健康増進を目指すためのノウハウとしてはやや弱いのかな、という認識になります。

 

まとめ

本書はやはり”温泉の専門家”が書いた本でした。
〈医者が書いた健康になるための本〉には遠く及びませんが、温泉そのものの文化を維持して
継承していくという観点からなら、その存在意義は大きなものだと言えるでしょう。

ホンモノの温泉と言えば、やはり期待するのはその健康増進効果です。
故に本書も「健康ゼミナール」というタイトルになったのだと思われます。

しかしこの本の主張のような、エビデンスに乏しい伝統的湯治の癒し効果が、健康効果として
広く吹聴されたために、現在の温泉の医学的研究が衰退したのではないかと思い至りました。

ガチガチの医学では、誰にでもはっきりと同様の効果が一定数出ないと認められないというか
科学的アプローチなので再現性が重要視されるのでしょうね。

一方で伝統的な湯治では、主観的な部分が多いことや湯治の結果として治らずに亡くなった方
の声が反映されないこと、その結果として治った人の声が目立つことなどが重なった結果、
湯治は病気が治る、という認識に至ったのだと予想できます。

 

そうは言っても伝統的な湯治場の、ホンモノの温泉は気持ちがいいのは間違いありません。
これは実際に入るともう感動するレベルの気持ちよさです。
病気も治ってしまいそうだ…と思います。

病も気から、というように、この圧倒的な気持ちよさと精神的な安楽さが、身体のメカニズム
を正常化し、結果として病気を治せる身体になる、ということなのでしょう。

それが病気よりも強くなるのか、それとも命が尽きるまでに間に合わなかったのか。
その差に過ぎないのかもしれませんが、まだまだ真実の解明には時間がかかりそうです。

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