温泉の科学 温泉を10倍楽しむための基礎知識‼︎ 佐々木信行 著

温泉本
人は古代から心と身体を癒すのに、温泉を積極的に活用してきました。
ただ、温泉にも天然と人工があり、また泉質によって効能が変わります。
そこで本書では、温泉とは何かという基礎知識から、物理的効果や成分による違い、代表的な入浴法、飲泉やタラソテラピーといった活用法、さらには温泉の歴史から温泉土産まで、温泉を10倍楽しむために役立つ知識を解説していきます。
-本書カバーより引用-
本書は温泉に関する書籍を多数著している香川大学教育学部教授の佐々木信行氏による、
温泉の基礎知識が学べる本です。
温泉関連書籍といえば旅行ガイドなどの書籍が多い中で、上に引用したように本書は温泉を10倍楽しむための基礎が身につけられる珍しい位置付けの本とも言えます。
オールカラーで読みやすく、写真が豊富に取り入れられており、あまり温泉に行ったことが
ない人でも温泉にまつわる知識がイメージし易くなっています。
類書の「温泉学入門」と同様の内容(同一の著者)ですが、より温泉を楽しむために役立ち
そうな知識が追加で盛り込まれており、科学的な側面だけではなく温泉名物やお土産などの、
文化面からの知識も得られる構成となっています。
1つのトピックが適度な長さで区切られているため、知りたいテーマを検索しつつ読み進め
られるのも◎です。

著者について

佐々木信行(ささき のぶゆき)
1975年、東京大学理学部卒業。理学博士(東京大学)。現在、香川大学教育学部教授。日本温泉科学会評議員・理事、日本温泉科学会53回大会長などを務める。共著を含めた著書に、『温泉学入門』『資源論入門』(コロナ社)、『温泉科学の最前線』(ナカニシヤ出版)、『天然無機化合物』(裳華房)などがある。2013年9月に日本温泉科学会功労賞を受賞。
-本書著者プロフィールより引用-
日本温泉科学会の要職を務められるほどの方ですから、日本における温泉の発展に向けて尽力
されていることと思います。
そう行った温泉普及の一環として、こうした温泉科学の基礎知識の啓蒙に取り組んでいる面もありそうです。
この方の書く温泉入門書は、広範な知識がカバーできているので、最初に取り掛かるには打っ
て付けの本です。

ひと言でいうと、(良い意味で)素人向け温泉入門書

本書は一つ一つの話題について、見開き+1〜2ページという構成になっており、広く浅く、
温泉に関する色々なトピックに触れることができます。
中には相互に関連しているテーマもありますが、こうした形で展開する本は、まさに入門用。
一気に読まなければというプレッシャーも感じにくく、新書サイズでもあります。
そのため、温泉巡りを始めたばかりの方や温泉に行き慣れない方が、旅のお供に携帯するのに
もちょどいいサイズです。温泉のことを知り尽くしたプロが作る本だからこそ、ですね。

内容について

本書は全10章構成となっています。各章のテーマを引用して紹介すると、
「第1章 温泉とは」から始まり、
「第2章 温泉の性質と分類」
「第3章 温泉の分布と熱」
「第4章 温泉の効能と利用法」
「第5章 温泉の期限と変化」
「第6章 温泉に関する法律と温泉環境」
「第7章 温泉の管理と衛生」
「第8章 温泉の歴史と文化」
「第9章 温泉の名物」
「第10章 現代の温泉の課題」と続いていきます。
各章の大まかな内容については、以下の各章にて概観していきます。

第1章 温泉とは

まず偽装温泉事件の発生から温泉のあり方についての考察から本書は始まります。近年の温泉のあり方への問題提起でしょう。
天然と人工温泉の違いについての説明や、温泉法の成立についてと鉱泉分析法指針、
温泉と鉱泉の違い、火山性温泉と非火山性温泉、海底温泉、
温泉の色についてのコラムと言った、
温泉水の性質やその湧出に関する解説がなされる内容となっています。
「温泉とは」という章のテーマに沿った、温泉そのものや定義などを解説しています。

第2章 温泉の性質と分類

温泉の分類法の紹介として、温度(泉温)、液性(pH)、浸透圧、化学成分(泉質)による分類法の説明から始まります。
成分の濃度単位(各種単位の違いや特徴など)の説明、
濃度で温泉の重要度が変わる「特殊成分」の説明、
他の泉質とは溶存物質量が極端に少なくても温泉となる放射能温泉に関する話題、
若がえりの成分とも言えるORP値(酸化還元電位)の説明、
循環式と掛け流し温泉の違い、有機成分の歴史的変遷についてのコラムという内容です。
本章では温泉がどんな風に分類されているのか、また分類された種類ごとにはどのような特徴
が備わっているのかを詳しく解説していきます。

第3章 温泉の分布と熱

本章は温泉の分布と熱源の関連についての内容となります。
温泉の数と源泉の違いでは未使用源泉が全源泉の3分の1もあり、温泉の過不足が発生している事実が紹介されています。
日本の温泉は東高西低の温泉分布と言われるように、火山の多い東日本に熱い湯が多いことが解説されています。
続いて温泉の熱放出量についての説明とその利用法、地熱の有効利用(地熱発電と副産物)に関する説明と続きます。
増加する揚湯量の背景と今後懸念される環境問題についての話題もあります。
温泉沈殿物(湯の華)の紹介では温泉に含まれる成分が析出し、天然記念物となる例が紹介されています。
コラムの地震と温泉ー震災前後で泉質変化ーでは、地震の前兆として温泉の性状(色や湧出量など)が変動することから、地震予知への応用が研究されていることなどが紹介されています。

第4章 温泉の効能と利用法

まさに温泉の本らしい話題と言える章で、温泉分析書と温泉掲示に関する話、温泉と浴槽の違い、温泉の効能、飲んでもおいしい単純温泉、肌により酸性温泉とアルカリ性温泉、怖くない放射能温泉と行ったテーマが並びます。
温泉を利用するときに活用し得る情報として、多くの内容が記載されています。
温泉の利用法ー多様な入浴法ーでは、ただ浴槽に張られた湯に浸かるだけではなく、ふかし湯や岩盤浴などの色々な特徴的な利用法が紹介されています。
本章のコラム「入浴回数ー味ある真夜中の温泉ー」では、著者ならではの温泉の楽しみ方の紹介や、温泉に入る回数などの話題が書かれています。

第5章 温泉の起源と変化

温泉が発見される経緯が歴史上の人物や動物によって名前が決まるケースが多いことが説明されています。
同名の温泉では白鳥温泉と黒川温泉の例が紹介されています。
温泉生物ー多種多様な生態ーでは、温泉だからこその特徴的な生物の紹介、その一種としてトルコの温泉が発祥のドクターフィッシュについての解説があります。
そのほかでは温泉水の起源として同位体を調べる方法が解説されています。
温泉の泉質変化、色やにおい・味などの変化の項では、温泉は自然物であるため、絶えず変化している事実について言及しています。
コラムの「クレオパトラの水」では、先ほどの同位体による温泉水の起源と絡めた、分子レベルでの確率論についてのお話が載っています。

第6章 温泉に関する法律と温泉環境

本章では、温泉関連の法律や権利関係についての説明です。
温泉権や宇奈月温泉訴訟(引湯管も温泉の一)に関する解説、温泉環境権(周辺環境と相互共存)、環境と人間という項目では温泉の利用、開発などによる周囲への影響について考えなければならない問題について紹介されています。
温泉法の改正では、温泉成分の分析が更新制になったことなどについての説明がなされ、続く項目では、温泉と天然記念物についての位置付け、温泉の評価法、天然記念物の現状(観光と環境の板挟み)と続き、温泉利用が普及することと、天然記念物や環境が維持できない状態がせめぎ合っている現状が浮き彫りにされています。

第7章 温泉の管理と衛生

温泉を利用する上で確保すべき安全性に関する章です。
温泉ガスによる事故やその防止、スケール析出に備えた必要な管掃除と交換の必要性、酸性泉と腐食の関係という設備面の話題、沈殿制御剤(薬剤添加は是か非か)のような温泉の質を変えてしまう添加物の投入についてや、温泉の衛生と安全(レジオネラ属菌対策)としての塩素の注入といった問題の解説です。
そして温泉と健康ー生活習慣病にも効果ーでは温泉の健康効果についての解説もあります。
コラム「入湯料金ー銭湯類似の割安料金ー」では、大いなる恵みをもたらしてくれる温泉料金についての考察が紹介されています。

第8章 温泉の歴史と文化

温泉の歴史と文化ということで、まず我が国の温泉の歴史を概観し、外湯と内湯の違いや、見直される秘湯ー情緒あふれる秘境の湯ーとして、改めて独特の雰囲気ある秘湯が人気になってきていることなどが論じられます。
そして温泉と文学ー小説にちなんだ温泉ーでは温泉でこそ創造性が引き出される可能性を論じ、温泉と音楽、温泉美術館ー自然の中で英気を養うーでも、普段の生活環境と異なる場で過ごすことの創造性への働きかけに注目しています。
コラム「心のゆとりー仕事と遊びー」では、いかに遊びを持つか、その重要性が説かれており、忙しい自分を省みる機会として温泉旅行をオススメしています。

第9章 温泉の名物

温泉に関する本の中で、この章はとても本書の特徴を表しています。
単なる温泉の学術書ではなく、「温泉が10倍楽しくなる」ための本である所以です。
温泉の土産の紹介、、温泉の建物ー味わいある共同浴場ーの味わい方、温泉と浴衣の理由、散策ー自然への回帰ーとして温泉を取り巻く環境の持つ癒しの力、温泉からの眺望を楽しむこと、混浴に関する考察と続きます。
この章の話題は旅行ガイドでは触れにくく、また温泉学の専門書でもややレジャーっぽい内容となりますので、本書が本書たる所以であるとも言えます。
コラム「温泉番付」では、その発祥から時代の移り変わりによって変化してきた東西の番付について紹介されています。

第10章 現代の温泉の課題

本書の締めくくりとして、温泉を取り巻く未来についての考察が含まれています。
温泉と観光ー観光に華添える名湯ー、異文化交流ー海外からの温泉観光ー、温泉と研究、温泉学ーフィールド科学の魅力、日帰り温泉ーマイカー利用で増加ー、入浴の功徳、湯けむり、温泉情緒ー醸し出す温泉旅情、という話題に沿って、それぞれ現状とこれからの考察が述べられています。
また、研究領域としての温泉学についても言及され、温泉の研究はフィールド科学、フィールドワークが中心となる科学研究の分野であるとされます。
温泉を楽しむ形も時代とともに変化してきています。
そんな中でも、温泉情緒を味わえるような昔ながらの湯けむりが立ち上る温泉街も残っていてほしいもの、という著者の声に共感しました。

本書から何が得られるか

本書は広く一般向けに書かれた、まさに「温泉の入門書」。
過去に著者が共著にて書いた「温泉学入門」よりも、さらに一歩踏み込んで
温泉を楽しむための知識が満載です。
温泉をただ入って癒されるのもいいですが、本書のようなちょっとした知識を持っていると、
浴槽一つとってみても循環式なのか掛け流しなのか、
泉質はどんなものなのか、その効能についても納得した上で温泉が楽しめるようになります。
さらには温泉に入ることだけではなくて、
その周囲の環境や文化的背景にも想いを馳せることができ、
その土地の名物や特徴を、さらに深く味わうこともできるようになるでしょう。
温泉好きならぜひご一読を、と言いたくなるような一冊です。

この本をオススメする人

温泉旅行初心者の方に読んでもらうと十分に役立つ内容だと言えますが、
敢えて温泉旅行によく行く人、いわゆる宴会型の温泉での過ごし方をされてきた方にも、
ぜひ手にとっていただきたいです。
なぜなら、そういった過ごし方とは違う、温泉地そのものを味わう形の過ごし方が、
自然にできるようなるからです。
この本に書いてあることの一部でも頭に入れて温泉地へ赴けば、その知識を確かめたくなって
きっと深くその温泉地を味わおうとするはずです。
ゆっくり流れる時の豊かさを感じられるようになるでしょう。

書評まとめ

温泉に行き慣れている私でも、改めて基礎知識とされている本書を読むと、新たに知ることが
たくさんありました。
引湯管内の流速が速いほどスケール析出が多くなる、など知識に思わず唸りました。
温泉にまつわる本では、主に泉質や健康効果、そして地学的な視点からの解説が多いですが、
本書は温泉地のお土産やその文化的背景にも思いを馳せることを教えてくれました。
長年温泉の研究をされている著者だからこその、温泉の楽しみ方の紹介だと思います。
本当に温泉が好きな著者が書いた本であるからこそ、こうした本に仕上がっているのだという
何か安心するというか腹落ちするような読後感です。

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