熱海の奇跡 いかにして活気を取り戻したのか 市来広一郎 著 

温泉本

熱海の奇跡 いかにして活気を取り戻したのか  市来 広一郎 著

熱海復活の立役者による著書

温泉ファンにとっての熱海とは、伝統的温泉地の代表と言っても過言ではない温泉地。

私個人的にもとても好きなお湯が湧出している温泉です。

歴史的にも「温泉地代表」とも言える熱海が、数年前まではまるで廃墟のような寂れっぷりを晒しておりました。温泉ファンとしては心が痛みます。

ところがここ10年以内の熱海の復活ぶり、みなさんも見聞きしていることと思います。

なぜあの熱海が、バブルに湧いて一斉を風靡したのちに凋落した、そのモデルケースとも言うべきあの熱海が復活したのか、私は非常に気になっておりました。

そんな復活した温泉地、熱海の復活の裏側ではなにが起こっていたのか?

熱海復活の立役者たる著者が自ら書き記した一冊が本書です。

この本に書かれていることが全ての寂れた温泉地を復活させるとは限りませんが、地域の活性化にビジネス的手法を応用した視点は、大きなヒントにもなりそうです。

個人的に私の心に刺さったのは、「地元の人がまず地元を好きになること」。

当たり前に聞こえますが、確かに寂れて活気のない地域は、そこに住む人々も自分の住む土地に対して良い印象を持っていないなあ…と強く共感するのでした。

 

熱海のイメージ=バブル期の社員旅行、団体旅行

私が初めて熱海を訪れたのは2012年の冬。

まさに熱海といえば「過去の栄光」しかない、凋落した温泉街のイメージそのものでした。

そしてそのイメージを裏切ることなく、しっかりと寂れた雰囲気が充満する町だったのです。

大きなホテルの建物、リゾート地っぽい街並み。

ああ、この大規模ホテルの中でかつては旅行が完結していたんだな…。

お手本のような「かつての歓楽街」に、私は感情が昂まるのを感じました。

もはや遺跡を味わうかのような感慨。

かつての栄光、栄華を脳内補完して当時を偲ぶ、妄想の世界です。

 

熱海といえば温泉、あの徳川家康がお気に入りだった名湯が湧き出す地。

しかしそれも今は昔、平成の時代にわざわざ熱海を目指す旅行者はごくわずか。

そんな風に思って、宿泊はおろか名湯と名高い熱海の温泉にも入らずじまいでした。

私の初・熱海は、「閑散としているイメージ」通りの街並みに感動したのみだったのです。

 

2020年の熱海は活気のある、新時代の温泉地

2012年より毎年、縁あって熱海に滞在する機会があります。

これを書いている2020年も熱海に滞在しましたが、年を追うごとに発展しているのを感じます。

初めて熱海駅に来た時には田舎の駅よろしく、味わい深いこじんまりとした駅舎だったのが、いつのまにやら駅ビルが建ち、近代的な様相を呈しています。

駅前ロータリーも整備され足湯も設置されたりと、熱海の名湯たる温泉を期待する人へも応えることができるようになっています。

こういった「再開発」では、老朽化した古い建物を建て替えて、近代的な建物を作ったりしがちですが、熱海の場合には、既存の店舗や建物を使って活性化を目指しています。

そのため歴史ある温泉旅館や味わい深い建物が所々に残っており、熱海温泉の長い歴史を感じさせつつも、古臭さは感じない街並みになっています。

本書でも言及されているのですが、元からある店舗物件、長期間空き店舗だった物件を再利用することで、新たに商売を始めやすい状態を作り出し、熱海の外部から「クリエイティブな30代」を呼び込むことにも成功しています。

熱海への思いが尋常ではないほど強く、熱海を「復活」させるという気概があるからこその、古くからの資源を活用したまちづくりにつながっているのでは、と思います。

 

この10年間で変わった理由が納得できる本

熱海はこの10年で大きく活性化しており、今後さらに新しい温泉地、新しい地方都市のあり方を模索し、そのモデルケースとなっていくことでしょう。

著者も言っていますが、まちづくりとは、行政や政治が主導となって行うものだというイメージが先行している部分もあります。

しかしこの熱海の事例のように、民間からの働きかけや主体となる動きを活用することが重要で、より地域に密着した住民主体のまちづくりに発展していくものと言えそうです。

行政など「公」の部分は、民間での動きを促進したりサポートする立ち位置でいることで、町おこしの主体となるその地域の住民が、指示待ちや補助金目当ての持続性のない活動に陥ることも防ぐことができます。

この本の内容としては、「熱海」というかつて大きく発展しその後大幅に凋落した温泉街を、ビジネス的アプローチにより新しく時代に即した形で復活・発展させていくプロセスを説明したものです。

しかし本書が示唆する内容は、他の地方都市への応用に留まらず、元々ヒントを得ることとなったビジネス分野への応用にも活用できそうな事例と言うこともできそうです。

本書の帯には「この本は、(中略)読み終えたら多くの人が挑戦したくてウズウズするだろう刺激に満ちた一冊だ」とあります。

まさにまちづくりを通じて大きなことへ挑戦する、そのプロセスが詳しく書かれている本ですから、読後感は「自分も新たな挑戦をしたい」気持ちに火が付くような気持ちにさせられます。

熱海の温泉のいちファンとしても、こうした熱い思いをもった人が熱海再生に向けて動いてくれたおかげで、古さと新しさが共存する熱海を楽しめるようになっていることに深く感謝の気持ちを持つに至りました。

こうした裏側の事情を知ると、早速熱海へ温泉に入りに行きたくなりますね。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました