温泉教授の温泉ゼミナール 松田忠徳 著

温泉本

本物の温泉を問う、隠れた名著

2001年12月初版発行のやや古い温泉本ですが、この松田忠徳氏が主張する
「ホンモノの温泉」
の考え方に強く共感するため、紹介します。

2001年当時の本の帯には

この本を読むと
温泉の見方、選び方が
180度変わります。♨︎

-「温泉教授の温泉ゼミナール」帯より引用-

と言う風に書かれています。
当時はスーパー銭湯や大深度掘削技術が普及しつつある頃で、
そこら中で「天然温泉」が掘削され、汲み上げられ始めていました。

まだ温泉についての知識も、自然湧出の温泉にはいった経験もなかった私は、
温泉という看板に惹かれて足しげく通ったりしたものです。

 

著者について

1949年北海道洞爺湖温泉生まれ。東京外国語大学大学院(修士課程)修了。モンゴル学、アフリカ文学専攻。現在、放送作家、翻訳家、札幌国際大学観光学部教授。’98年から1年8カ月をかけて全国2500の温泉を制覇した旅は話題に。夫人はモンゴル出身。主な著書に『モンゴルー蘇る遊牧の民』(社会評論社)、『全国お湯で選んだ”源泉”の宿』(弘済出版社)、『列島縦断2500湯』(日本経済新聞社)、『カラー版温泉教授の日本全国温泉ガイド』(光文社新書)など。

-「温泉教授の温泉ゼミナール」より引用-

これは本書が出版された2001年当時の経歴となりますので、最新のものも探してきました。
現在は「”温泉教授”松田忠徳の毎日が温泉.com」の監修をされており、このページでの経歴も
やや長いのですが引用します。

医学博士、文学博士。”温泉教授”の異名で知られる国際的な温泉学者で、数々の著作を発表する旅行作家でもある。またグローバル温泉医学研究所所長、モンゴル国立医科大学教授、北京徳稲教育機構教授等を兼任する。
日本の誇る温泉研究の第一人者として、札幌国際大学教授、上海・復旦大学教授、モンゴル国立大学客員教授、崇城大学客員教授等を経て現在に至る。
温泉関係を主に著書・翻訳書は約150冊に及び、新聞、雑誌の連載、TV、ラジオ等のマスメディアへの出演も多数。
温泉の”予防医学”と”美容”における有効性のエビデンスを確認するため、国内外の温泉地で入浴や飲泉モニターによる実証実験を実施している。モニタ-数は延べ1000人に迫る。
温泉の主な著書に『温泉教授の日本百名湯』(光文社)、『温泉教授・松田忠徳の新日本百名湯』(日本経済新聞出版社)、『江戸の温泉学』(新潮社)、『日本の千年湯』(新潮社)、『温泉教授・松田忠徳の古湯を歩く』(日本経済新聞出版社)、『美人力を上げる温泉術』(講談社)、『温泉力』(筑摩書房)、『知るほどハマル! 温泉の科学』(技術評論社)、『温泉教授の健康ゼミナール』(双葉新書)、『温泉に入ると病気にならない』(PHP新書)、『温泉教授の湯治力』(祥伝社新書)など。
最新刊に『温泉はなぜ体にいいのか』(平凡社)、『温泉手帳 増補改訂版』(東京書籍)、『俵山温泉読本』(書肆長門)など。
他に、DVDビデオ『温泉教授・松田忠徳の日本百名湯』(全10巻、日本経済新聞出版社)、『全国どこでも温泉手帳』 (ニンテンドーDSソフト、マーベラスエンターテイメント)などもある。
なお著書は中国、香港、台湾、韓国、マレーシア、モンゴル等でも翻訳出版されている。

-「”温泉教授”松田忠徳の毎日が温泉.com」より引用-

世界で唯一、「温泉教授」としての活動が広がっています。
このように温泉の素晴らしさを世に広めるため、長い間活動されている方です。

いわゆる「医者が書いた」温泉本とは一線を画する、真の温泉ファンのための視点を、
この”温泉教授”こと、松田忠徳氏が提供してくれているのです。

 

ホンモノの温泉とはこうだ!という、こだわりの見える本

本書は、日本唯一の温泉学教授が身近すぎて論じられてこなかった温泉についての
色々な真実を熱く語る、という本。
一温泉ファンとしての視点も含まれており、大変共感する内容となっています。

この著者の主張が説得力を持つ根拠として、この本の出版時点で、
すでに日本全国4,300湯を制覇しているという、凄まじいまでの温泉体験。
それだけ入っていれば、、流石に温泉の良し悪しもわかろうというものです。

あらゆる温泉(ホンモノ、ニセモノ含め)を体験したからこそ主張される、
ホンモノの温泉たる所以を、滔々と語り尽くしてくれています。

 

温泉を深く味わうには

元々、温泉は自然湧出するもの

温泉とは、古来より神聖なものとして扱われてきました。
湯治が行われる場所では、医者に見放された患者が懸命にたどり着き、
そこで命が尽きてしまうことが多くあったのも一因でしょう。

しかし地理的にも火山の近くという、非常にリスクを伴う場所であったり、
険しい山の中であったりすることから、そこに湧く癒しのお湯というのは
まさに奇跡の為せる業と言えます。

大深度掘削技術などというのはここ最近の話であって、
本来の温泉というのは自然に湧き出す地球の恵な訳です。

自然に湧くからこそ新鮮で効果抜群、
どんな病気も治ってしまいそうな期待を持てるのです。

温泉の真髄は「共同浴場」にあり

そんな神聖視されていた温泉は、地域で共有のものであるという認識がありました。
誰かが独占しようなんて思わなかった。
だから古くからある温泉の源泉地には、神社やお寺がたくさんあります。

神仏との繋がり(死者が多く出る、というのもあったかもしれませんが)が強い場所と
いう認識があったということです。
そう言った伝統的な温泉地では、無料かあるいは低料金で入れる「共同浴場」があります。

これこそが本来の温泉のあるべき姿であり、その源泉の力を一番受け取れる場所なのです。

かつて湯治宿には風呂がなかった

このように共同浴場が整備されていた(そうでないと効果が薄れる)ために、
湯治宿にはお風呂がありませんでした。
今でも伝統的な形を残す湯治宿は、共同浴場+宿数件という形になっています。

だからこそ、これからホンモノの温泉を味わおうと思うのなら、
その温泉地の「共同浴場」のお風呂に入るのが良い、ということになります。
野沢温泉の共同浴場巡りなどは有名ですしわかりやすいですね。

共同浴場は、「お湯」が主役です。
お湯は勝手に湧いてくるものですから、贅沢に浴槽からどんどん溢れ出しています。

しかし源泉が熱すぎる事があるので、吐水口からはチョロチョロとしか出てない事が
ほとんどです。

温泉の流入量で浴槽温度を調整しているため、水で薄めることもしてません。
常に新鮮なお湯で満たすために、浴槽も小さめです。
石鹸やシャンプーは備え付けがない事がほとんどですし、タオルも持参する必要があります。

お湯以外は全て自前で準備する事が必要ですが、そういう自分で段取りするところから、
伝統的な湯治スタイルの追体験となり、温泉マニアの心を満たす事ができるのです。

至れり尽くせりのホテルもいいものですが、ぜひ一度くらいは共同浴場へ足を運んで
いただき、真の温泉パワーを体感してみてください。
朝に入ると、その日は夜まで疲れ知らずで過ごせます!本当です!

現代のお風呂事情 −塩素注入の義務化など−

伝統的な温泉、すなわち自然湧出かつ源泉かけ流しのお風呂は本来は消毒などは不要です。
ところが大量に人間が入り、一度に処理できるように大きな浴槽が登場します。

そして快適性を求めてホテル内に浴槽を設置します。
すると温泉の絶対量が不足しますから、水で薄めたり、ろ過器で循環します。

いくらろ過しているからと言っても、一度人間が入ったお湯には色々溶けてますから、
細菌にとっては栄養満点なお湯になります。
そうなると、衛生面で問題となり、塩素などによる消毒が必要となるのです。

アルカリ性の温泉は、肌が溶けてヌルヌルします。古い角質が溶けて美肌になるなんて
言われていますが、あのヌルヌルが他人の脂なんじゃないかと気が気じゃないです。
なんせ、ろ過器の中は人間の脂肪でドロドロですからね。ヒャアーー!

ほとんどのお風呂が消毒を要する「天然温泉」

日本の温泉の定義について環境省ホームページには、以下のように記載されています。

温泉は、昭和23年に制定された「温泉法」により、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、表1の温度又は物質を有するものと定義されています。

 

表1

1. 温度(温泉源から採取されるときの温度) 摂氏25度以上
2. 物質(以下に掲げるもののうち、いずれか一つ)
物質名 含有量(1kg中)
溶存物質(ガス性のものを除く。) 総量1,000mg以上
遊離炭酸(CO2)(遊離二酸化炭素) 250mg以上
リチウムイオン(Li+ 1mg以上
ストロンチウムイオン(Sr2+ 10mg以上
バリウムイオン(Ba2+ 5mg以上
フェロ又はフェリイオン(Fe2+,Fe3+)(総鉄イオン) 10mg以上
第一マンガンイオン(Mn2+)(マンガン(Ⅱ)イオン) 10mg以上
水素イオン(H+ 1mg以上
臭素イオン(Br)(臭化物イオン) 5mg以上
沃素イオン(I)(ヨウ化物イオン) 1mg以上
ふっ素イオン(F)(フッ化物イオン) 2mg以上
ヒドロひ酸イオン(HASO42-)(ヒ酸水素イオン) 1.3mg以上
メタ亜ひ酸(HASO2 1mg以上
総硫黄(S) [HS+S2O32-+H2Sに対応するもの] 1mg以上
メタほう酸(HBO2 5mg以上
メタけい酸(H2SiO3 50mg以上
重炭酸そうだ(NaHCO3)(炭酸水素ナトリウム) 340mg以上
ラドン(Rn) 20(百億分の1キュリー単位)以上
ラジウム塩(Raとして) 1億分の1mg以上

-環境省ホームページより引用-

表1を見ると、温度は25℃以上か所定の物質濃度があれば温泉と名乗る事ができます。
地下水は深く掘れば掘るほど水温が上がる事が知られていますから、どんな場所でも
地下2,000メートルも掘れば、何らかの物質が溶け込んだ25℃以上の水が出るのです。

温泉の濾過器の仕事をしている時、こうした無理やり掘削して地下水をポンプで汲み上げる
温泉法上の「天然温泉」を見ていると、温泉の存在意義を疑わざるを得なくなります。

そのような、【法律上は温泉扱いのただの地下水】は、汲みあげるのに動力を要する上に、
湧出量が全然足りません。だから循環ろ過を行います。

循環ろ過を行う温泉は、基本的に塩素による消毒が義務付けられています(塩素消毒が不可能
な場合は、それに変わる衛生対策を講じる。銀イオンとか過酸化水素など)。

もしもレジオネラ属菌が1つでも検出されたら営業停止になり、保健所の検査があります。

例外的に、泉質等が強酸性などによりレジオネラ属菌等の発生があり得ないと認められる
場合に限り除外されることもあるようですが、基本は消毒が必須です。

このように、汲み上げたいわば井戸水を「沸かし」て、「循環」させ、そして塩素で
「消毒」した水から、温泉の効果なんて得られるのか?という事です。
温浴効果として、一般適応症の効果あるでしょう。それは家の風呂でも効果があります。
しかし、泉質ごとの効果については甚だ疑問です。

ちなみに泉質分析表の採水地は、源泉地になります。浴槽ではありません。
水で薄めて塩素を添加したお湯は、すでに分析表の温泉とは別物になるのです。

この本をオススメする人

そこら中に乱造される自称「天然温泉」にうんざりしている、温泉愛好家へ。

「ホンモノの温泉」という言葉を使わざるを得なくなってしまうほど、温泉法上の温泉が
増えてしまった事に危機感を感じる全ての人へ、オススメしたいです。

まずは騙されたと思って、例えば
草津温泉なら「白旗の湯」「熱の湯」
野沢温泉なら外湯のどれでも好きなやつ
有馬温泉なら「有馬温泉会館」があったところの「金の湯」
道後温泉なら「道後温泉本館」
別府温泉なら「竹瓦温泉」
に入ってみるのです!沁みること間違いない!

そのほか、昔からある温泉地の「外湯」「共同浴場」のお湯でも体感できるはず。
熱海の源泉「大湯」も沁み込みます(2020年現在「日航亭 大湯」となっています)。

 

この本から得られる事

本書は、実際に4,300湯に入った著者だからこそ主張できる、ホンモノの温泉についての
知識が得ることができます。

この本の主張に従い、各地の共同浴場のお湯に使って見ること。
一見すると共同浴場って、観光客は入っちゃいけないのかな?と
思うような風貌をしています。

それに何か汚いような、古いような感じで、ちょっと避けてしまいがち。
ところが、この共同浴場にこそその温泉が誇る効能があるということを理解して、
その上で入ることができるのです。

すると、体が温泉の力を受け止める準備ができますから、きっと温泉の真の力に
目覚めることができるでしょう。

 

この本の評価

2001年当時にこんな本が出ているなんて、当時はその意義が理解できないていました。

今でこそ温泉巡りをする中で、パワーのある湯と人工的な湯が体感的にわかりますが、
浴槽の消毒をメインの仕事にしていた頃は、ホンモノに入る機会がなさすぎて、
違いがわからなかったのです。

今、本当の温泉と言える「自然湧出」「源泉かけ流し」の温泉体験が増えた事により、
この本が言わんとしていたことがようやく理解できてきたと言えます。

そういった意味で、この本はまさに隠れた名著と言うべき1冊でしょう。

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