ホンモノの温泉は、ここにある 松田忠徳 著

温泉本

”いつもの温泉教授”らしい一冊

温泉ファンにはよく知られているであろう”温泉教授”こと松田忠徳氏が著した本書、
『ホンモノの温泉は、ここにある』。

この著者が唱える「ホンモノの温泉」について、その存続と周知・啓蒙に向けて書かれた
一連の著書の類書とも言える一冊です。

著者ご本人は、「循環ろ過・塩素消毒の風呂を否定したことはない」とおっしゃっていますが、
源泉かけ流しを好む温泉ファンからは、源泉かけ流し原理主義の親分のような認識を持たれて
いる方です。

私自身も源泉かけ流しであることが良い温泉の必須条件である、と思う節はありますが、
著者が主張するような、伝統的湯治場のような不便さをも強要する(と受取られかねない)
ような姿勢には、全面的に賛同することは難しいかなと思う印象です。

そんな著者が書いた本書ですが、本書の意義はレジオネラ症に代表される温泉の衛生管理や、
温泉そのものの性質の偽装問題などに対する度重なる問題提起、と言えます。

本著者の「温泉ゼミナール」シリーズにおいて、
衛生管理や温泉偽装の問題は繰り返し言及されており、
ホンモノの温泉がいかに貴重であるかを訴えかけています。

本書もこれらのシリーズと同じような内容ですが、ホンモノの温泉が生き残るために自らも
動き出した、と言う新しい動きをきっかけに書かれている印象を受けました。
とは言え、著者の作品を読み慣れている方にとっては馴染みの感じでしょうね。

巻末に本書出版時点でのオススメの「ホンモノの温泉リスト」が記載されているところが、
松田氏の本を読み慣れている方でも楽しめるところかな、と言えそうです。

ただし、松田氏の本を相当程度読み込んでいる猛者にとっては、何回も同じようなオススメが
出てきている可能性も否定しきれません…。

本書の内容について

続いて内容の紹介ですが、Amazonの「内容紹介」および「内容」がわかりやすいので引用。

Amazonの「内容紹介」

Amazonは一部の書籍を除いて立ち読みのようなことができる「なか見」ができますが、
一般的にはリアル書店のような立ち読みができません。
その状態で商品を買ってもらうため、こうした宣伝内容は洗練されたものがあります。

ここでは本の帯にあるような宣伝文である「内容紹介」と、より詳しく踏み込んだ「内容」を
引用して紹介します。

二〇〇四年の夏、日本列島で相次いだ温泉の不祥事。その根っこはいったいどこにあるのか? 問題の所在と解決策を、温泉教授が解きほぐす。源泉かけ流し温泉130カ所を紹介。

-amazon「内容紹介」より引用-

さすが本の帯のような文言です。ネット書店が一般的となりつつあると言っても、
初見で買わせるために的確な要約がなされているように思います。

一方で、より踏み込んだ「内容(「BOOK」データベースより)」では、

レジオネラ菌繁殖による死亡事故、かけ流し温泉に対する塩素殺菌の強要、入浴剤の混入、水道水・井戸水を温泉と偽装表示、温泉の無許可利用、そして、温泉の枯渇―。日本中を席巻する、マガイモノ温泉、ニセモノ温泉の根っこは、消費者無視の経営姿勢と、ザル法に等しい「温泉法」にある!温泉教授・松田忠徳が、温泉をめぐる諸問題を明快に斬りつつ、ホンモノの源泉かけ流し温泉を130カ所紹介する。ホンモノの温泉を一度体験すれば、世界観が変わります。

-amazon「内容(「BOOK」データベースより)」より引用-

と言うような、本書を読むと分かることや、本書のテーマについてどれほどの権威がある人が
書いているのか等の紹介がされています。

本書は ”温泉教授” として多くの本を出版している松田忠徳氏が書いている本で、温泉の本来の
効能である癒しやリラックスなどの効果を得るには、「ホンモノの温泉」に入る必要がある、
と言う主張を行っています。

多くの温泉ファンが塩素臭い温泉や、循環ろ過して新鮮でない温泉になんとなく違和感を持つ
現在において、本書のような問題提起は受け入れられやすいのでは?とも思えます。

「源泉かけ流し宣言」から始まる温泉の保存

奈良県の十津川村における「源泉かけ流し宣言」により、ホンモノの温泉が自らその存在を
アピールし、生き残るために動き出したことを紹介しています。

その他にも本書中には、同様の宣言を行ったり温泉管理や運営に関する情報公開を契機とした
ホンモノの温泉の復権に向けた動きが紹介されています。

その一方で、これらホンモノの温泉とはどう言うものを指すのかの解説も、初めてこう言う
考えに触れる人向けに解説がされており、親切なところもあるなと言う感想を持ちました。

ホンモノの温泉の素晴らしさを引き立てる「ニセモノの温泉」

本書では著者の他の作品である「温泉ゼミナール」シリーズでも言及されている、温泉偽装や
レジオネラ症事件の紹介もされています。

これら温泉存続の危機や、そこからあぶり出される「ニセモノの温泉」を紹介していきます。

そしてニセモノの温泉と言っても過言ではないようなモノでさえ、法律上の温泉として認め
られる、現行の温泉法の問題へと切り込んでいきます。

現状では温泉法上の温泉であれば正式な「温泉」として名乗れることから、これまでの伝統的
なホンモノの温泉(維持管理に手間がかかり、利用上も不便であることが多い)が駆逐されて
きていると言う問題も浮き彫りになってきます。

「悪貨が良貨を駆逐する」と言うことわざの通り、ホンモノの癒し効果抜群の温泉たちが、
次々と掘削開発される「温泉法上の温泉」によって駆逐されていくのです。

しかしそれはホンモノの温泉の良さを実感したことがない人が大多数だからであり、本書等で
ホンモノの温泉の素晴らしさを知り、実際に入ってみて実感する人が増えてくれば、
自ずとホンモノの温泉ファンも増えてくるはずです。

そうすれば泉質にまでこだわらず、近くて便利なニセモノの温泉、マガイモノの温泉と、
多少不便でもホンモノの泉質を味わいたい人とのニーズの差別化が図れ、ホンモノの温泉が
存続することになる、と言うのが著者の考えのようです。

本書が訴える問題の本質

本書の主張の柱は、「温泉施設の情報公開がされていないこと」と「温泉法がザル法である」
の2点となると言えるでしょう。

これら二つの問題のために消費者である私たち温泉ファンが、ホンモノの温泉とはどう言う
ものなのかを知る機会が奪われていると言います。

こうした本書の主張の展開を注意深く読んでいくことで、著者は「循環ろ過・消毒あり」の
風呂が大嫌いなのだろうと察しがつきます。ただし、それらの存在まで否定しているわけでは
ない、つまり循環ろ過・消毒ありの風呂の否定ではない、と言うことになるようです。

さらっと読むと、やはりこの本の著者は「源泉かけ流し」しか認めない、原理主義者のような
受け取られ方をされてしまうだろうなあと思う読後感があります。

ただし裏を返せば、それほど過激な主張をしないとホンモノの温泉がなくなってしまう、と
いう著者の危機感の表れでもあると言えます。

ここ数年では、源泉一軒宿と呼ばれる源泉に一軒しか宿がないと言う温泉地で、宿が閉業する
と言う事例も目立つようになっています。

そんな時代だからこそ、著者のようないわば「過激派」とも受け取られかねない人の存在が
貴重なものとなってきていると思えます。

 

読後感とまとめ

本書は ”温泉教授” が主張する、ホンモノの温泉礼賛本である、と表面的に受け止めた人は
評価するかもしれません。

しかし著者がなぜそこまで過激な主張を展開する必要があるのか、そこを少し考えて見ると、
温泉ファンの側にも責任の一端があるのかもしれないと思い至ります。

市街地にいきなりできる最近の日帰り入浴施設や「天然温泉」。

社会の中の多くの人がホンモノの温泉を体験したことがない中で、近くで便利な立地に
「本物の源泉かけ流しの天然温泉」だと言うものが提供されたら、それが温泉というものだ
という認識になるのは仕方がないとも言えます。

しかしなぜ未だに、交通が不便で設備も粗末、食事も自炊するような「湯治宿」が残って
いるのか理由を考えた時、そこに効果抜群のホンモノの温泉が存在するからだ、と思い至る
人がいったい何人いるというのでしょうか。

人間は易きに流れる生き物である、というのは厳然たる事実です。

しかし一度でもホンモノの温泉の素晴らしさや圧倒的な気持ちよさを体験すれば、
市街地や郊外にあるような、ちょっと深い井戸から汲み上げた地下水を沸かした風呂とは全く
違うものだということを思い知るはずなのです。

そうした「ホンモノを知る努力」を怠ってしまった俄か温泉ファンが増えてしまったことも、
ホンモノの温泉がなくなりつつある危機を招く理由の一つなのかもしれません。

温泉ファンを自認する皆さんにはぜひ本書のような本にあるリストを活用して、
ホンモノの温泉に積極的に入ってほしいものです。
私も積極的にホンモノの湯治宿を選んで利用するようにします。

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