地球惑星科学の視点から語られる温泉
本書は1994年8月15日に初版が発行されている、
やや古典となりつつある温泉に関する専門的な内容を一般の人向けに解説した本です。
地球科学を専門とした一温泉ファンの著者が、
本業の研究を進める中で関わってきた「温泉」について
主に地球科学の視点を切り口に解説します。
温泉に関する本が観光とか温泉を楽しむための要素が多い中で、
本書は、そもそも温泉とはどんなものか?温泉ができる理由は?
などの温泉の存在そのものを、一般の人でもわかるようにやさしく解説しています。
本書は一般向けとは言っても、やや専門的な話が散見されます。
化学記号なども使われているので、もしかしたら抵抗感をもつ方も多いかもしれません。
しかしそう言った読解を乗り越えた先には、一回りもふた回りも成長した、
温泉の見方が身についているでしょう。
そうした温泉を見る目が養われると、実際の温泉に使った時の効果も
倍増するような気もしてきます。
こうした温泉の本は、類書をあまり見かけません。
未だ人工的に掘削したいわゆる「天然温泉」があまりない、1994年という時期に本書が
書かれた背景を考えても、本書の存在意義は貴重なものとなるでしょう。
本書では、「日本全国2300箇所の温泉」と記述がありますが、2020年現在では法律上の
温泉も含めると4400箇所以上で、さらに増え続けています。
著者について
白水 晴雄(しろうず はるお)1925年福岡県に生まれる。1948年九州大学理学部地質学科卒業。黒崎窯業(株)研究所を経て、1952年より九州大学理学部勤務、助教授、教授をつとめ、1988年退官。現在、九州大学名誉教授-本書「著者紹介」より引用-
1988年に九州大学を退官されている先生です。研究内容は地球惑星科学が主で、
日本の研究.comによると「層状珪酸塩鉱物の鉱物学的性質と生成条件」というような
地質学の研究実績がある方でで、温泉水に興味を持ったのは、温泉作用(熱水作用)に
よってできた粘土鉱物の研究に没頭していた時だとの事。
本書の記述も、温泉水の起源や泉質が形成される話、さらには同位体比率による水の
供給元の判定法という専門的なことを詳しく紹介されています。
通読するだけでは理解が難しいですが、できるだけわかりやすく説明しようという著者の
姿勢と専門性が発揮されている箇所と言えそうです。
温泉の生い立ちや泉質の解説書
地球惑星科学の視点からの温泉専門書
本書は地球惑星科学の専門家が表していることからもわかるように、温泉について、
地質学的な観点から説明しようと試みた本です。
著者も「はしがき」で言及しているように、温泉に関する本というと、温泉や温泉宿に関する
案内書や紀行書、温泉療養書と言ったものが数多く出版されている一方で、温泉の生い立ちや
泉質に関する一般向け書籍が少ないと言っています。
そのため本書は、地球惑星科学の観点からわかりやすく温泉について説明することを試み、
温泉にまつわる様々な側面や関連方面についても広く記述する本に仕上がっています。
温泉の専門書とも言える広範なテーマ
本書で触れる内容・テーマは、地球にはなぜ温泉があるのか、温泉とはそもそもどんな物で、
どのようにして温かい水が湧き出してくるのか、
さまざまな泉質がなぜできるのかなどの温泉の起源の問題を始め、
温泉水に関係の深いミネラルウォーター、温泉の利用、地熱発電、熱水鉱床、温泉災害、
温泉生物、温泉の歴史、温泉の楽しみ、温泉浴法、温泉療法、各地の温泉の概要について
記述しています。
このように、本書が触れる温泉にまつわるテーマは多岐に渡ります。本書を読むと、かなりの
温泉通になれる事間違いなしです。
お客様視点ではない知識の本
私も「温泉の工事をする側」というやや希少とも言える仕事をしてきましたが、温泉を
提供する側や温泉そのものについて深める視点というのはなかなか世に出てきません。
世の中の温泉に関する知識が「お客様側」の視点ばかりである中で、
こう言った温泉そのものの知識を提供してくれる本は非常に貴重であると言えます。
本書のようなやや専門的な本を読み込む事で、ガイドブックや人気に左右されない、
自分だけのこだわりの温泉、お気に入りの温泉、を見つけることができるでしょう。
本書をオススメする人
温泉が好きだけど、もっと自分で温泉の良し悪しを判断したいと思うマニア。
温泉の存在について不思議に思い、その生い立ちを始め知識を深めたい人。
ただ旅行して温かい湧き水に浸かれればOK、という人にはあまりオススメできません。
本書は読む通すにはやや労力を要しますので、温泉そのものに興味があるとか、
温泉はなぜ湧いてくるのか、と言った疑問を解消したい方向けの本になります。
そう言った意味では、温泉ファンというよりは温泉マニア向け…と言えるでしょう。
この本から得られる事
本書は温泉についての知識を深めるためにはとても良い本です。ですから、本書を読むと
温泉についての表面的な理解だけではなく、本質的な知識・理解が得られます。
こうした温泉そのものについて深く知る事で、温泉を楽しむ幅が広がることはもちろん、
温泉地全体を包括的に捉えて、その背景や形成過程に思いを馳せることができます。
こう言った楽しみ方は、どちらかというと研究者やある分野のマニアがやる方法にも似て、
もはや温泉のプロと自認してもいいのではないかというほどの知見をもたらしてくれます。
書評まとめ
繰り返しになりますが、本書は温泉に関する専門知識を提供する、学術的な本です。
本格的な研究所よりは一般向けに編集されていますが、通読することで得られる知識は、
包括的に温泉の存在を捉え、深い理解へと導いてくれます。
本書に書かれている知識を吸収して、行き慣れた温泉地を再訪することで、今まで見慣れて
いた温泉地が、もしかしたら別の顔を覗かせるかも知れません。
そうした新しい新鮮な視点を提供してくれるのも、新しい知識を得る醍醐味と言えますね。


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