著者が選ぶ「本物の温泉」論
本書は「誰も書かない”源泉かけ流し”の真実」というサブタイトルがあるように、
いわゆる昔ながらの【本物の温泉】と思われている「源泉かけ流し」についての
こだわりを持つ著者による本です。
温泉ファン、秘湯ファンを自認する人ならきっと理解してくれるはず。
よくわからずに源泉かけ流しだから良さそう、って思っていると、実は加水してます、
加温してますなんてことがざらにあります。
本書では、独自の基準によって厳選した、73件の宿を紹介しています。
その中でも特にオススメをベスト10にしているというから、かなり期待が持てます。
本書の主張する「源泉宿」を定義する4つの条件
著者によると、【本物の源泉宿】と言えるのは、全国1万箇所以上もある温泉宿泊施設のうち
1%にも満たないといいます(本書の主張に従えば、73件しかないということですね)。
では、その基準とはどのようなものなのか。
本文より引用すると、
一、源泉かけ流しであること(循環はもってのほか)二、加水しないこと(源泉の湯量不足を補う加水はもってのほか。源泉の湯温が高すぎるための加水も認めない)三、消毒しないこと(これをクリアすることが一番むずかしい)四、清潔が保たれていること(つまり、こまめな清掃。三の無消毒をクリアするためにも必須の条件)この4条件をクリアすることが必須だが、冬場の加温だけは仕方なしとする。
この条件だけを見ると、まあそうかなと思えなくもないものです。
ただし、源泉かけ流しの定義がちょっと曖昧ですね。
自然湧出の自噴泉なのか、それとも掘削した動力揚湯なのかによっても、温泉水の感覚は
違ってくるようにも私は思います。
著者について
本書は共著という形を取っていますので、著者が2名いらっしゃいます。
小森/威典
昭和11年、神戸生まれ。25年にわたりテレビ業界で報道・ドキュメントの制作に携わる。温泉番組の制作は120本余りで、ギャラクシー賞をはじめ数々の賞を受賞。飯沼/覚寿
昭和24年、栃木県那須塩原市生まれ。化学プラント設計施工、会社経営などを経て、昭和63年温泉を掘削。西那須温泉「大鷹の湯」経営のかたわら、ORP測定機によって全国の源泉湧出口と湯舟の測定を行ない、本物温泉研究集団を立ち上げる。現在、株式会社大鷹の里取締役会長。-amazonより引用-
本文でも触れていますが、小森氏は温泉番組を作る過程で、かなりのニセモノ温泉を
見てきた経験があるとのことでした。
裏側を知っているというのは、情報の信ぴょう性も高くなってきます。
飯沼氏は温泉宿のオーナーです。栃木県の「大鷹の湯」を所有しています(もちろん、本書の
オススメ源泉に記載)。
自分の温泉を載せちゃうあたりが、なんか。
そしてこの温泉は、掘削している温泉です。ナトリウム塩化物炭酸水素泉。
関東周辺を掘削すると、ナトリウム塩化物炭酸水素泉が出るパターンが多いですね。
よくあるやつです。
本書から得られること
本書は、著者らが主張する、本物の源泉宿の条件に合致した温泉宿泊施設を紹介する本です。
著者は多くの温泉を見てきたベテランだし、もうひと方は自分の温泉を経営しています。
まさに温泉のプロが選んだ宿リストが手に入ります。
温泉宿として、何が一流たらしめるのか、という視点が得られますから、
もしもリスト外にある温泉宿泊施設を利用したとしても、どこがマズイのかが自分で
わかったりします。面白いですね。
本書の欠点
一温泉ファンの私から見た、この本のイマイチな点です。
①本書の「本物の温泉」の条件の中について、「源泉かけ流し」に動力揚湯の掘削源泉が
含まれている。
②草津温泉が「加水して温度を下げないと入れない」とし、リストから除外している。
③素晴らしい宿としている本書のリストに、著者がオーナーの温泉が入っている。
あくまでも、ちょっとマニアックな温泉マニアが見た、ごく個人的な視点です。
この本で書かれている宿の素晴らしさは、宿泊すればきっと誰もが驚きとともに感動するレベルであることは間違い無いです。
各宿泊施設ごとに、どこがどうすごいのかを説明していますし、実際そうなのだと思います。
しかし、温泉を工事してた私からすると「源泉かけ流し」は、地球が自然に湧出させている湯
というニュアンスが欲しいです。
人間の都合で無理やり地面に深い深い穴を掘って、無理やり地下に眠っている温かい地下水(深度が100メートル増すごとに平均で3℃上昇します)を、動力を用いて汲みあげるなんて
大地のエネルギーを搾取しているように見えてしまいます(個人的な印象です)。
草津温泉が認められない理由が「熱すぎるから」なんて、草津ファンの私からすればもう許しがたい温泉への冒涜でしかありません。
草津温泉は水で薄めません。源泉から引湯する過程や湯もみをして冷まします。
温泉のプロなのに草津温泉を水で薄めて入ったんでしょうかね?
酸性が強すぎて水で薄めないと入れない玉川温泉もニセモノ扱いしそうです。そんなバカな。
あとはこれは事業経営者の宣伝の一環でしょうが「宿リスト」に自分の宿を入れちゃうあたりがなんか恥ずかしい感じがしました。
リストに入れるほどにすごくいい温泉である、と言う自信の表れかもしれませんが、この温泉を入れるために源泉かけ流しの定義に「動力揚湯」を含めたんじゃ、と勘ぐりたくなります。
書評まとめ
リストとして乗っている温泉は、どこも本当に素晴らしい温泉だと思います。
湯の量がごくわずかであっても、それを経営姿勢や運営でカバーしていたりと、涙ぐましい
までの努力の賜物と言えます。
一方で、泉質マニアである私の視点からだと、特に源泉が濃いとか、お湯に特徴があるような
宿があまり見られないな、と言う印象です。
本書の欠点として挙げた項目にもありますが、本書の著者らとは温泉を評価する基準が異なる
と言うことなのでしょう。
こうした自分とは違う評価軸で見ている人が勧める温泉宿も、自分の経験や視野を広げるため
に利用してみるのもいいかもしれません。


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